『はつゆきさくら』(SAGA PLANETS)

個人的に惜しいと思ったのは、場面展開が急なところがあったことかなぁ…「もうちょっと色々溜めてからやっても良かったんじゃないの」と思うところはある。ただそれを差し引いてもプレイして良かったな、と思った。
深いところまで傷めつける話ではない、初雪の過去は辛いものではあるけれど、語り口のせいか『壮絶』ってほどじゃない。心を抉り刺すような話じゃない。
けどそんなものじゃなくて良い。これはただ降り積もる雪のように、降り注ぐ桜のように、過ぎ去る学園生活のように、一人の男の子と一人の女の子が卒業するための、おとぎ話なんだから。

*強制BAD:−(ラン:★★★★☆)
これ一周だけで評価できないというのが正直なところ。今後の布石ってところを含めて実質ここまでがプロローグってことかな。一旦新学期になって桜を無視するところが辛くて仕方がなかった桜そんな顔でこっち見ないでくれよ…。あとところどころランの声が使いまわしな辺りが「あぁ…もうランは人形になっちゃってるんだな」って感じがして辛いです。
初雪は初期位置づけが「もう何処にも行けないジリ貧キャラ」で大変私好みなのですが、これを各ヒロインルートで打ち破るのかなぁ。まずは「何処にも行けないまま」だった初雪を書いておく必要があったのかなーと思いました。

*綾ルート:★★★★★(綾:★★★★★)
これは良い意味で予測から外れたな…浪人は単なるお節介焼きだと思ってたのに何がどうしてかなり癖のあるキャラで可愛いとはまた違うんだけどすごい魅力的。ちゃんと自分の中に利害を持っていて、その利害に沿って行動してるから逆に厭味がないんだよな…ただ心の中は空洞っていうか中身が詰まってなくて、だからこそ初雪との会話でほんの少し人間らしくなるのが良い感じ。掴みどころがないんだけど、芯を見つけたらまるで「私は幻だよ」って溶けて消えてしまいそうで…まぁ実際初雪と過ごした綾は一度は消えてしまったわけですが。「1人で、大丈夫?」は自分のための言葉でもあったのかもしれないなー、と。だからこそ、過去編でない現代編の綾ルートはちゃんと2人を一緒にいかせてあげたんだと思う――それが、たとえ正しくない道であっても。
綾と初雪って似てるんだよな、多分…甘ったれででもそんな自分が嫌いだからお互いに反発心を持って。というか初雪の偽悪者ぶりにはホント僕泣けてしまいますね…こいつマジ単なる偽悪者やで…この強がりボーイ、そりゃ久保も憧れてまうで…wwww

*夜ルート:★★★★☆(夜:★★★★☆)
いや兆候はありましたがまさかの夜ヤン気味で俺の中の夜の好感度が鰻登りな件。最初は静かにっていうか不穏にスタートした綾ルートとちょっと違って、夜ルートは最初からきな臭かった。夜は顔のない誰か(=社会)を恨むしかできなかったんだろうなぁ…少しずつ少しずつ歪んだものを一挙に引き受けた可哀想な子。しかしそれだけに前向きが空回りな感じしてラブってコメってる辺りすげー不安で、「それ何も解決してないやろ!」とか思ったら案の定だったわけで。でも最後の最後でただの夜に戻れて良かったなぁと思いました。あのスケートの笑顔すごい良かった…あれが本来のあの子なんだろうなぁ、と。
あ、あと夜の性格のせいかわからないのですが結構やり取り飛ばしてるなーと思いました。闇鍋とかw こういう明るい目なのも『学園生活』っぽくて良いんじゃないでしょうか。卒業につきものだもんね。

*希ルート:★★★★☆(希:★★★★☆)
うん、マジでバカだなぁ…希。だからこそ愛しいというと何だけどとりあえずおっぱい揉みたい。馬鹿すぎてホント可愛いおっぱい揉みたい。それはともかくとして、春が来て消えてしまうことを告げた初雪に対して「それって選択肢がない」って笑う希の大器さと言ったら…その後のやり取りのアホアホ可愛いのもたまらん。照れながらもデレる初雪も相まってこっ恥ずかしくて全俺がにやにやである。
何気に人の持っている面が善ばっかりじゃないのも良かったルートだなぁと思いました。登場人物紹介に載っていた竹田も金城も妻も皆後ろ暗い役どころを持たされていたわけですが、悪いのはいつも「名も無き誰か」な作品が多い中結構新鮮でした(まぁたもっちゃんは俺らのヒロインだから汚れ役とか引き受けなくていいんですけどね!) それが誰しも簡単に卒業できるわけじゃなくて、ちっぽけに見えても本人にとっては大きなあれやこれやを抱えたまま歩き続けて卒業するんだ、って感じがして。
あと、ゴーストたちに「肉が欲しいか」と問われて「希の隣には居られない」と初雪が答えを出したのも、それが彼の卒業だったところも。お約束だけどちゃんと卒業式に迎えに来てくれた辺りも良かったけどね!

*シロクマルート:★★★★☆(シロクマ:★★★★☆)
希ルートが『卒業』そのものをテーマにしてるなら、シロクマはその対で『受験』あるいは『スタート』がイメージなのかなぁ。あとは綾ルートが初雪の過去に関する話ならば、シロクマルートは初雪の居ないその後についての話で、その二人が初雪と知り合ったのがカンテラだっていうのがなんというかめぐり合わせだなぁ…と。
あぁ、いやっていうかこのルート正直EDまがいが流れた時は「えちょっとこれで終わりか手を抜き過ぎだろう…」と思ったんですが、始 ま っ て も 居 な か っ た ん で す ね ! いやー、シロクマ入学後のシナリオが「そうそうこういう雰囲気だよ俺が欲しかったのは」って感じでくそう、ホント憎い緩急のつけ方やで…あと私全くサクヤが玉樹になりすましてるなんて思わなかったです…畜生皆立ち絵が出なかったのはそのせいかよ! コノヤロウ! 終わってみれば非常にらしいルートでしたよ…あぁしかし一つだけ何を言うならですね、まともにロリシロクマとのHシーンがなかったのはですね! 非常に! 遺憾です!
あ、えぇとあと本屋のおばちゃんご愁傷さま…あんたの娘ビッチやで(;´Д`)、、、

*桜ルート:★★★★★(桜:★★★★★)
…あのバニーに意味があったなんて畜生、畜生!
桜可愛いよ桜…ハァハァ。とにかくこの可愛くて可愛くて可愛い生き物とですね、日常をたんまりと堪能出来るだけで俺は僕は私は…ってわけですよ! とにかく前半は桜の可愛さとイチャイチャだけで話が成り立ってた気がするが気にしない! だって卒業だもん! 学生生活大事だもん! 同棲生活も大事だもん! いやー…途中から分かってはいたんですけどね、それが現実逃避というか猶予期間というか、残された時間をただただ二人で一緒に過ごしていただけだってことは。だから踏み出した時そこには何も残らないのが分かってて辛かった。更にアレだよ、ずっと前から桜が初雪を見守っていたところで倍だよ! ロリ桜可愛いハァハァ…。
後半の怒涛の桜の境遇が反則過ぎてだなぁ…何て健気な子や…見てもらえなくても聞いてもらえなくてもただ側に居て応援し続けて、ただ初雪が幸せであるようにそっと背中を押す存在でありたかったって…畜生。っていうか今考えてみれば、何気に初雪がやった無視という行為は一番桜にやっちゃいけないことだった気がするよ。あぁあと初雪のケータイにはきっと桜のメールが残ってるんだろうなぁ…切ない、ホント切ない。正直な話、どうにかして桜を救ってあげたかった。たとえご都合主義でも二人に幸せになってもらいたかった。
けど、色々と背負いながら、話せないこともありながら。どうしようもなく死者であったとしても、たとえもうその先などなかったとしても、そこに残った気持ちだけは確かに彼らが生きていた証だから。

きっとこのお伽話の感想の最後はこの言葉が相応しい。
"はつゆきからさくらまで。卒業、おめでとう。"

生者は死者の夢を見、死者も生者の夢を見る。そうして、どこかで彼らがまた会えると良い――春は始まりの季節でもあるのだから。