『タペストリー-you will meet yourself-』(light)

まず、始めに。私がつけている★の評価は、作品としての評価ではありません。ですので、★5つだからと言って、皆さんに薦められるわけではないです。この★の評価は、どれだけ制作者側の魂や妥協のなさが感じられたか。つまり、どれだけ制作者が気持ちよく満足してオナニーしたか、という評価です。エロゲをやっている時、私が結局「やって良かった」と思う作品は、(最低限のレベルをクリアする必要はありますが、結局のところ)「俺はこういうのがやりたかったんだぁああああ!!!!」という叫びが感じられるものだからです。もちろん、そういう叫びとエンタテイメントが合わさるのが一番良い、というのは分かっていますが(TYPE MOONなんかまさにその典型でしょう)。そういう意味では、エロゲの評価を最終的には1ユーザーとしてではなく、1制作者として評価している、ということで、あんまり意味のないレビューだな、と日頃思っています。
さて、『タペストリー-you will meet yourself-』ですが、1ユーザーとして見た場合、はっきり言って我慢できないところはたくさんあります。まずシステムが致命的です。重い、重すぎる……噴き出しはまだ我慢できるけどさぁ。そしてHシーンの無意味な揺れに関しては本当に……それ、要らないですから! 何年前のエロゲだよ、全く。お話も前半(というか体験版の辺り?)は正直あまりのめりこめませんでした。「Gu助にお布施するか……」まさにそんな心境で買ったのを覚えています。あ、Gu助の絵は文句ありませんでした! でも信者発言だから気にしないでね!
ですが、終えてみた今思い返してみるに、魂の感じられる作品であったことは否定できませんでした。
以下ネタバレにつき反転↓
この作品がエンターテイメント性に欠けていることは、クリアした方なら誰でも感じられることではないでしょうか。この作品をやって途中まで曲がりなりにも楽しんでしまった人は、『奇蹟』が起こって皆ハッピーエンドになる、そういうTRUE ENDを求めたのではないでしょうか。しかしこの作品にはそういったタイプの救いはありません。『加奈』や『flutter of birds』ですら用意したそういう『奇蹟』のエンドを、この作品では一切用意していなかったのです。それを「空気読めよ……」と言ってしまえばそれまでなのでしょうが、しかしこの作品で制作者が書きたかったテーマは恐らく「『奇蹟』がたとえ起こらなくても、救いはある」、そういうものではなかったのかと。それは、発売後のHPトップがヒロインではなく主人公・はじめであることや、メインヒロインである幼馴染・ひかりのルートの以下のやり取りからもわかります。
ひかり「最後まで諦めちゃダメでしょ?
奇蹟は起きるかもしれないんだものっ!
信じなかったら、ダメだよぉ!」
遥海「……目を逸らしたいだけじゃなくて?」
このやり取り、『奇蹟』に対する強烈な皮肉であり、ある意味真実でもあるな、と思いました。まぁそれを言っちゃおしまいなんですけどね。私がlight作品に求めているのは、エンターテイメント性ではないので、そういう意味ではいつものlight作品で安心しました*1
クリア順は遥海→詩→紗希→美那→ひかり。この攻略順、良くなかったよ! 遥海は最後にやるべき!!

*遥海ルート★★★★★(遥海:★★★☆☆)
一番最初にやった遥海ルートが一番秀逸だったという事実。以下引用ぺたり。

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いや、っていうか愛とか恋とかそんなものじゃないね。だって「ハジメの一部になりたい」だぜ? 部長がある意味純粋って言うか真面目すぎて困った。だらだらただ生きていくのに耐えられない人なんだけど、享楽的に見えて、そうじゃないんだよなぁ。取り合えずデレる前の部長は半端なく酷い人だが、デレた後の部長のインパクトで許す! 
「生きるってことは、時間の長さじゃないよ。
何を成したのか、成そうとしたのかに意味があるんだよ。
簡単に言えば、楽しく過ごそうってこと。
苦しいことや辛いことで終わらせる人生より
嬉しい人生の方が楽しいじゃない」
これは時間が止まっているけれども刹那的な部長の心に響く一言でした。

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全クリして思いますが、残していったものがタペストリーだった、というところからも分かるように、遥海、裏メインヒロインですね。命の残りが少ないけれど生にしがみつきたいはじめと、人生続いていくけど生きようと思えない遥海の対比。良い話だった。

*詩ルート★★★☆☆(詩:★★☆☆☆)
終えてみれば一番印象の良くなかった(というか薄かった)詩さん。以下引用ぺたり。

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選ばないと言うことは、それだけで何かを選んだと言うこと。そしてその選択によって亡くすものは、恐らく何かを選んだ時よりも大きいと言うこと。そんな風に何も選べずにこじれにこじれてしまった幼馴染とその親友との関係。幼馴染の気持ちがすげー良く分かるだけに、病んでしまったところはショックだった……部長ルートでは部長と主人公を頑張って明るく応援してたから、元々そういう子だったんじゃなくて、きっと主人公が選んだ相手が、ずっと自分と主人公の仲を応援してくれてる(と思っていた)親友だったからなんだろうなぁ。何もかも捨てて逃げようとする親友は結局のところ最後まで何も選べなかっただけに途中まではあんまり良いヒロインとは思えませんでした。いや、まぁと言うか仲直りの辺りは幼馴染が良い味出しすぎてたのと、結局親友から、幼馴染なり主人公なりを思いやっての言葉が一つもなかったのが気になってねぇ。多少のフォローはありましたけど、Hシーンではねぇ……。
いや、しかしながら最後の手紙と指輪にはしてやられましたよ……生きてる間は可能な限り傍にいて一緒に生きて、負担をかけないよう精一杯笑って過ごして、けれど死んだ後はもう縛りたくはなかった、という主人公の気持ちは、自分勝手でもとても優しい。薬指じゃなくても良い、という言葉は、流れていく時間を予期させて寂しく残酷で、でも大きな愛を感じさせて、とても優しい。

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うーん、全クリしてもあんまり感想変わらないなぁ。

*紗希ルート★★☆☆☆(紗希:★★★★☆)
紗希は終えてみると一番肩の力が抜けたシナリオだった気がします。色々ごちゃごちゃしてなかった分、シンプルだったかなぁ、と。以下引用ぺたり。

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EDの『ふたり』が鳴るとそれだけで涙がどばどば出てくるからやめてほしい……何と言う泣き装置。主人公が死ぬと言う現実を受け止めたくなくて病院に会いに行けない後輩と、それを乗り越えていって欲しい主人公。気持ちが落ち着かないままに会いに行く辺りとかリアルでしたね。あれ、別に後輩がきっぱりと自分の中で決着をつけて会いに行ったわけではないと思うんですよ。ただ、本当に失われると分かってしまって、「会えなかった」という選択をしたくなくて会いに行ったに過ぎないんじゃないかなぁ、と。結局ラストのウェディングドレスを見るまで、後輩の中で結論先送りだったんですよね、たとえ主人公が死んでしまっていても。しかしウェディングドレスと言うのが結構意味深なのですが……将来まで自分に縛る気でウェディングドレスにしたのかなぁ、やっぱり。そうすると、このルートではあんまり達観して死んだわけじゃないんだな、主人公……うー(´・ω:;.:...

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こちらも、全クリしてもあんまり感想変わらず。

*美那ルート★★☆☆☆(美那:★★☆☆☆)
見た目は一番可愛かったんですが、過去のトラウマ発動などなど、あんまりテーマに合ったストーリー展開ではなかった気がします。美那ルートだけはラストに主人公が生きている(まぁ半年経っても生きてるだけで、確実に死にかけだが)んですが、何か釈然としないと言うか。ただその分ヒロインのエゴが出きったルートだったとも思います。

美那「だって、はじめは半年後にはもういないんだもの」

宿題をやろうとしたはじめに美那が言い放ったこの言葉、鳥肌立ったね。はじめが「今までと変わらずにいてくれる」と惹かれていった美那はただ演技をしているだけで、「あと半年後だけは騙しきれるかもしれない」と告白する美那と見事にすれ違っていて、はじめちゃん可哀想すぐる。ラストは落ち着くところに落ち着いた、という感じでしたが……このルートは結構釈然としなかったな。

*ひかりルート★★★★★(ひかり:★★★☆☆)
幼馴染の力激しくヤバイ。王道は王道なんですよ。余命幾ばくもないのでひかりを遠ざけようとするはじめと、それでも傍にいたいひかり。病気のことを皆に隠している(つもりでいる)はじめは、何で遠ざけようとするのか言うことが出来ない。ひかりは知っているけれど、はじめから話してくれるまで知らないふりをする、と決めている。
はじめがひかりを傷つけた後に反省して、ふと「これが恋なんだ」と分かるシーンも良かったですが、何より良かったのが、二人して「死にたくない(死んでほしくない)」「死ぬのが(おいていかれるのが)怖い」「まだ生きてたい(生きていてほしい)」と声を上げて二人で公園で泣くシーン。胸が詰った。どちらももうどうしようもないと分かっていて、でも達観なんて出来なくて、どうしようもなくて泣く。そうやって怖いと泣けること、共有できること。全てをさらけ出して、たとえ短い間でも一緒に生きていけるということ。綺麗事だね、本当に綺麗事だと思う。でも溜まらず泣いてしまった。
ラストにはじめが死んでしまって、「あぁ、やっぱり子供おった……」と思ったのですが、不思議と「ちゃんと家族計画しとけよ」と思わずに、「良かったね」と思ってしまった。
このルートだけは、はじめがヒロインと結ばれた後に「○○には俺が死んだあと××してほしい」というモノローグがなかったように思います。それは、はじめが本当に『今』を生きていたからではないかと。そういう意味で、正ヒロインはきちんと正ヒロインだと思いました。


まぁ今年は良いものを買えたようで、幸先の良いスタートです。

*1:ただ、『Dies irae』に関しては、言い訳できないと思ってますけどね! 己のクリエイター魂に手を当てて、あれが満足できる出来で出したものだったのか、もう一度問い返してみると良いよ! 言い訳は見苦しい。クリエイターを名乗るのなら、作品で答えてください。